有床義歯の調整・指導及びブリッジの適応症と設計並びにリベースのガイドライン |
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| 最終更新日 2008/02/09 | |||
| 有床義歯の管理について | ブリッジの考え方2007 | ||
| リラインの指針 | スタディモデルの取扱い | ||
平成19年10月12日
日本歯科医学会 会 長 江藤一洋 様
有床義歯の調整・指導及びブリッジの適応症と設計並びにリベースのガイドライン改定検討部会 部会長
黒ア紀正
報 告 書
「有床義歯の調整・指導及びブリッジの適応症と設計並びにリベースのガイドライン」改定について、本検討部会において鋭意検討を重ね「有床義歯の管理について」、「ブリッジの考え方2007」、「リラインの指針」並びに「スタディモデルの取扱い」について取りまとめましたので、ここに報告いたします。
有床義歯には全部床(総)義歯と部分床(局部床)義歯とがある。全部床義歯は完全な粘膜負担義歯であり、また部分床義歯は咬合・咀嚼力の負担が歯根膜負担様式の中間義歯や歯根膜・粘膜負担様式の遊離端義歯および歯への負担をかけられない粘膜負担様式の粘膜負担義歯に分けられる。
有床義歯を装着した患者は、義歯を使用している間に上下顎の顎堤形態の相違および位置関係、残存歯の有無、あるいはその状態、さらには個々の咬合・咀嚼習癖、食習慣などによって、骨吸収による顎堤形態の変化、あるいは歯の移動が時間の経過とともに認められ、生体と義歯との間に不調和が生じてくる。したがって、この不調和を是正することにより、有床義歯によって回復された形態と機能を維持することができる。この不調和の是正と改善のためには、有床義歯の管理を的確に行う必要がある。
すなわち、新たな有床義歯を装着した場合の管理は、顎口腔系への調和と口腔機能の回復・維持が重要であり、以下の点に留意する。
@
生体との調和を主眼とした管理(調整・指導、概ね1 か月以内)
A 咀嚼等の口腔機能の回復を主眼とした管理(調整・指導、概ね2〜3
か月)
B 口腔機能の維持を主眼とした長期的管理
有床義歯の調整・指導に関して
有床義歯の義歯床や人工歯咬合面あるいは支台(維持)装置が生体と調和し、機能が回復できるような調整と患者への適切な指導が必要である。とくに装着直後が重要であり、その後、長期間使用しても生体に為害作用が生じないように定期的に調整・指導を行うようにする。義歯と生体との調和が不良になったままでの義歯の使用は、口腔内を不潔にし、結果的には残存歯のう蝕や歯周疾患を誘発する。また義歯の適正な使用方法が患者に理解されない場合には、十分な機能が営めなくなることもある。したがって生体の変化による義歯の不調和が生じた場合には適切な対応をする必要がある。
1 新たに製作した有床義歯装着後1か月以内の調整・指導
1)調整の概要
@ 義歯床の粘膜面、辺縁の調整
印象採得時の顎堤粘膜の被圧変位量の差の均等化や、床辺縁部の粘膜移動量の確実な把握ができない場合があることから、調整が必要である。
A 人工歯咬合面の調整
義歯床に直接接触している粘膜が義歯の荷重で変位、移動を生じ、義歯の安定する位置がやや変化するため、中心咬合位での人工歯咬合面の調整をする。また下顎運動による人工歯咬合面の接触滑走の範囲も生体の動きに合わせて調整する。
B 維持装置(クラスプ)の調整
部分床(局部床)義歯を装着した場合、鉤腕の不適合や維持力の強弱の調整を行う。
C 調整の回数
義歯床や人工歯咬合面の調整は顎堤粘膜の変位や移動が経時的に継続するため、1
回の調整では目的を達成することは困難である。義歯装着直後は痛みや生体との不調和についての検査を行う必要があり、装着後2〜3
日あるいは1〜2
週間においても新たな検査を行い、義歯の調整・指導を行う必要がある。たとえ患者による疼痛、不快感や違和感の訴えがない場合であっても、少なくとも1
ヶ月以内に数回の調整・指導が重要である。
2) 検査の項目と調整の内容
義歯装着時に、床の形態、粘膜面の小突起の有無などを確認後、以下の項目を検査し、調整する。
(1) 着脱性
上下顎義歯を別々に試適し、着脱時の障害の有無を調べる。
(2) 形態:以下の点に留意し、調整する。
@ 義歯床の床縁の長さと形態
A 床翼部の形態
B 床後縁と硬軟口蓋境界および翼突下顎ヒダとの関係
C 頬側床縁と頬筋付着部、小帯との関係
D 頬側後縁と咬筋との関係
E 唇側床縁と口輪筋の付着部との関係
F 臼歯部舌側床縁と顎舌骨筋付着部との関係
G 上顎義歯頬側後方床翼と筋突起との関係
(3) 適合性
@ 上下顎義歯を別々に行う手指圧下での検査
A 咬合調整終了後の咬合圧下での検査
とにより、適合性を調べる。
ア)
部分床義歯の場合、レストがレストシートに完全に適合していることを確認する。
イ) 上下顎義歯を別々に試適し、
・ 人工歯部への垂直圧での疼痛の有無
・ 前歯人工歯に圧をかけた時の臼歯部の浮き上がり
・
片側の臼歯部人工歯に側方圧をかけた時の対側の床の浮き上がり
などから、
・ 床縁の長さ
・ リリーフ不足の有無
などを調べる。
また、適合試験材を使用した場合は、義歯床の露出している部分を削除調整する。
ウ)
適合試験材を介在させて顎堤粘膜に圧接し、手指圧下で口唇、頬、舌による機能運動を行わせ、床研磨面の形態と粘膜面の適合状態を調べる。
エ)
咬合関係の検査後、適合検査材を介在させて、咬合圧下での義歯床粘膜面と粘膜面の適合状態を調べる。
なお、左右側または近遠心で被膜厚さに偏りが認められる場合は、咬合の不均衡が疑われる。また、頬舌側で被膜厚さに偏りが認められる場合は、頬舌回転が疑われ、咬合接触の与え方や間接維持装置が機能しているかを確認する。
(4) 咬合関係
@ 中心咬合位での咬合の修正を行い
A 次に側方運動、前後運動時の咬合の調整を行う。
調整後、中心咬合位でのタッピング運動、偏心位への運動時にも義歯が安定していることを確認する。
(5) 装着感(異物感):初めて義歯を装着する場合、
@ 異物感、嘔吐感、発音障害を起こすことがあること
A 1〜3か月程度により、軽減、消失すること
を考慮し、義歯床の長さや厚みなどを必要に応じて修正する。
3) 指導
義歯により回復した機能を良好な状態で長く維持するには、患者指導が重要である。指導項目としては、新義歯の順応期間、食事の仕方(摂食方法)、義歯の取り扱い方法、義歯および口腔内の清掃方法などがあり、調整・指導の必要性を認識させることが肝要である。
(1) 順応期間
説明内容:
@
咀嚼や神経筋機構に順応するためには、一定期間(2〜3か月程度)が必要であること
A
発音障害や異物感は、口腔内形態の変化のためであり、1〜3か月で徐々に消失すること
B 圧迫感がある場合には時々はずして再び装着すること
C
痛みがある場合には義歯をはずしておき、来院日の朝からは装着しておくこと
D 次回の来院時に再度調整すること
E
部分床義歯では、長く装着しないでおくと、残存歯が移動して義歯が入らなくなることがあること
F
唾液分泌量は、装着された新義歯の刺激により、一時的に増加する場合があるが、通常は1週間程度で正常に戻ること
(2) 食事の仕方
説明内容:
@ 最初は食べ易い食物を選び、小さくして食べること
A 両側で同じ様に咬むこと
B
全部床義歯装着者には、前歯部顎堤への圧の集中により、顎堤上顎前方部の顎堤、歯槽骨の吸収、義歯の不安定、顎堤粘膜の異常が起こるため、前歯で食物を咬断しないよう指導すること
(3)
義歯の取り扱い:義歯の着脱方法と夜間の義歯の取り扱い方法について説明する。
義歯の着脱方法:
@
義歯を装着する時には、義歯を水分で濡らした後に行うように指導する。
A
全部床義歯装着者には、義歯をはずす場合には、義歯の前方部を粘膜側に押し、吸着現象を消失させた後に行うように指導する。
B
部分床義歯装着者には、無理な力を加えずに着脱方向に沿って行わせ、咬み込まないで、最後まできちんと指で装着すること、またはずす時は支台歯に手指をあてて側方ストレスが発現しないように行うことを指導する。
夜間の義歯の取り扱い:
@
一般に、義歯床下粘膜を回復させるため、義歯をはずして、水中に保管させる。
A
就寝時の撤去が困難な場合は、義歯の都合のよいときに義歯を数時間はずさせ、床下粘膜を安静に保つことに努めさせる。
なお、就寝時の撤去が困難な場合とは、
ア) ブラキシズムにより残存歯に過剰負担が生じる場合
イ) 残存歯により対合顎堤が損傷される場合
ウ) 義歯が動揺歯のスプリントを目的としている場合
エ) 顎関節に過剰負担が加わる場合
(4) 義歯および口腔内の清掃
義歯の清掃を怠ると、デンチャープラークが形成され、口臭の原因になるだけでなく、残存歯のう蝕や歯周疾患、粘膜異常の原因となるため、義歯の清掃(デンチャープラークコントロール)が必要である。
義歯の清掃:
@ 義歯用ブラシ等で義歯を清掃する機械的清掃法の指導
A 就寝中に義歯を義歯洗浄剤中に浸漬させる化学的洗浄法の指導
B
清掃時の落下で義歯の破損を招くことが多いので洗面器等に水を張りその上で清掃する等の配慮が有効
口腔内の清掃:
@ 義歯清掃時に口腔内を含嗽し、清潔に保つこと
A
軟らかい歯ブラシで顎堤粘膜や舌背を清掃・マッサージさせることを指導する。
B
残存歯については、義歯に接する残存歯歯頸部、隣接面部を特に入念にブラッシングする。また、歯間ブラシや隣接面専用ブラシを適宜使用する。
2 新たに製作した有床義歯装着後の1 か月以降の調整・指導
義歯は口腔内で機能することにより、咬合圧が加わって沈下する。また、義歯に慣れてきた時期に使用上不適合が出てくることがあり、検査して調整・指導する必要がある。なお、装着1 か月以降においても患者が不快感を訴えている場合には、適宜に検査をし、調整・指導をする必要がある。
1) 調整
以下の図に示す義歯装着後に生じる症状とその原因、対応を参考に義歯を調整する。
注:床粘膜面の適合不良が重度の場合は新義歯製作、咬合接触の不良と咬合高径の不正が重度の場合は咬合面再構成、下顎位の不良が重度の場合は治療義歯により、対応する。
2) 指導
新たに製作した有床義歯の装着後1
か月以内の指導事項を適用するが、義歯床と顎堤粘膜との適合状態、上下顎人工歯の接触状態、口腔内の状態を検査し、それらの状態を説明するとともに、処置の必要性の有無、以後に予測される事態とその対応などを説明する。術者による処置が必要な場合には、その必要性、処置内容を説明する。
3 新たに製作した有床義歯装着後の定期管理
1) 義歯の生体適合性に着目した長期的管理
義歯装着後に調整や指導を行い、患者が満足した場合でもその後一定期間(6
か月を目途)を経過することによって、人工歯の咬耗や顎堤の吸収により、咬合の不調和や床の不適合が生じることがある。
また、わずかな不調和を患者が気付かずに放置することがある。したがって、義歯の長期使用のために定期的な検査を行い、異常があれば、それに対応した調整・指導を行うことが重要である。
特に以下の点を検査する。
(1) 残存歯と口腔内の状態
@ 残存歯のう蝕や歯周疾患の有無
A 口腔粘膜異常の有無
(2) 残存歯と義歯のプラークコントロール
(3) 義歯の形態
@ 義歯床の床縁の長さと形態
A 頬側床縁と頬筋付着部、小帯との関係
嘔吐感・嚥下時痛
床辺縁の形態・長さ床後縁人工歯の排列位置咬合高径
義歯の離脱・疼痛発語障害咬頬・咬舌
咬合接触の不良
不正長い・厚い不正高い低い
床粘膜面の適合不良下顎位の不良
リライン調整リマウント・修正
調整調整リマウント・修正
義歯装着後に生じる症状とその原因、対応
B 臼歯部舌側床縁と顎舌骨筋付着部との関係
(4) 義歯の適合性
@ 部分床義歯の場合、レストとレストシートとの適合
A 適合検査材介在時の義歯床粘膜面と顎堤粘膜面の適合
(5) 咬合関係
@ 中心咬合位での早期接触の有無
A 側方運動、前後運動時の咬合干渉の有無
2) 機能検査による口腔機能の維持を主眼とした管理
有床義歯装着により回復した良好な状態を長く維持するには、定期検査時の適切な義歯の調整・指導を行う。さらに、必要に応じて回復した咀嚼機能や発語機能などの口腔機能を把握し、その維持管理に努めることが重要である。
検査は、新たに装着した義歯に順応した時点で行い、旧義歯装着時との比較により、機能の回復程度、また、以後の定期検査時の結果との比較により、さらなる機能の改善、あるいは機能の維持や低下の程度を客観的に評価する。
T
ブリッジによる補綴治療法
U ブリッジの適用条件
V
ブリッジによる補綴治療を行う際の診察ならびに検査項目
W
ブリッジ治療の具備すべき条件
X
咬合力の負担からみたブリッジの適応症と設計
Y
支台歯相互の平行関係
Z
ブリッジの具体的設計
[
ブリッジの適応症の問題点
\
その他のブリッジの取り扱い
ブリッジによる補綴治療法は欠損部に隣接する残存歯を支台歯として支台装置を作製し、その支台装置と歯の欠損部を補う人工歯、すなわちポンティックを連結させて、咬合を回復し、咀嚼機能障害、構音障害、審美障害などを回復する治療法である。ブリッジは加わる咬合力を、すべて維持を求めた支台歯が支え、負担するので歯根膜負担の補綴装置である。
ブリッジによる補綴治療の適否は以下に示す条件によって定めることができる。
1 支台歯となる歯がブリッジによる補綴治療に適した本数存在していること。
2 支台歯となる歯は作製するブリッジの咬合負担等に十分耐え得る歯根および骨植であり、歯軸方向、位置、排列状態も適切であること。
3 支台歯は支台装置の作製が可能であること。
4 補綴すべき欠損部がブリッジによる治療を行うのに支障がないこと。
5 歯の欠損部の補綴装置にブリッジに適した配置、排列及び構造を与え得ること。
6 歯の欠損部の歯槽堤の退縮の程度及び状態が、ブリッジによる治療を行うのに支障がないこと。
7 対合歯との咬合状態がブリッジによる治療を行うのに支障がないこと。
8 口腔内の衛生状態がブリッジによる治療を行うのに支障がないこと。
9 患者の職業・習慣、食生活、受療条件などがブリッジによる治療を行うのに支障がないこと。
などである。
■ V ブリッジによる補綴治療を行う際の診察ならびに検査項目
ブリッジによる補綴治療の適否の判定や設計に際しては、前項のブリッジの適用条件中の諸事項に基づいて、種々の面からの正確な診察ならびに検査を行い、診断の資料としなければならない。
その項目を列挙すると、
1 年齢、性別、職業、生活環境、口腔清掃状態、食習慣
2 体質、性格、固有習癖、一般的健康状態(特に慢性疾患の有無)
3 患者の希望と補綴の既往歴
4 審美性(顔貌、表情との関係)
5 発音、音声、言語
6 残存歯
7 咬合関係および歯列の状態
8 支持組織の状態
9 欠損部顎堤の状態
10 顎堤を覆う粘膜の状態
11 その他の口腔内の状態
ブリッジ治療の具備すべき条件は、
1 解剖学的形態を整えること
2 咬合関係に調和すること
3 生理的諸機能を回復すること
4 咬合力その他の外力に耐え得ること
5 審美性を回復すること
6 負担過重により支台歯に為害作用を与えないこと
7 支台装置は適合が良好なこと
8 歯周組織に為害作用を与えないこと
9 二次齲蝕を防止できること
10 異物感のないこと
11 清潔に保たれること
などである。
ブリッジは、それに加わる咬合力がすべて支台歯、歯根膜を通じて歯槽骨に伝達される機構をもつ歯根膜負担性の補綴装置である。咬合力は支台歯自体に加わる力とポンティックに加わる力が相乗されたものとなり、これらの咬合力に対し、ブリッジが変形したり破折することなく機能することが要求される。
ブリッジによる補綴治療の成功・不成功を決定する大きな因子は各支台歯の咬合力負担能力であり、それは歯根膜の表面積に比例するものと考えられている。そのためブリッジの設計に当たっては、使用できる支台歯の歯周組織がどのくらい健康であるかを見極めることが重要である。
ブリッジの設計については、“固定性ブリッジを計画するに当たって、補綴歯に相当する歯の歯根膜の面積の総和に対して、支台歯の歯根膜の面積の総和は、同等ないし大きくなければならない”とする1930
年にAnte が発表した法則があり、この法則に従って、Duchange やVest
等によって、各々の歯に負担能力の指数が与えられている。しかし、これらの指数はいずれも健全歯の咬合力負担能力あるいは歯根膜の表面積から算出したものとして考えるべきである。
また、隣在歯の欠損によって隣接面接触点が消失すること、根管治療を行った歯の咬合力負担能力は健全歯に比べ低下すること、歯周疾患に罹患した歯は歯槽骨の吸収程度に比例して咬合力負担能力が著しく低下することなどから、上記の指数は各支台歯の状況を勘案した上で使用することが重要である。
そこで、設計にあたっては、支台歯の処置状況をみながら、健全歯の歯質の切削量を減少させることができるかどうか考慮することも必要である。
咬合圧に対する各歯の負担能力には限界があるので、その限界を越える場合は負担過重により、予後不良の結果となることは当然である。負担能力の限界を越えたり、または支台歯となる歯の状態、上下顎の咬合状態などにより、ブリッジによる補綴治療ができない場合がある。
ブリッジの適応症は中間型の1歯欠損に対し、隣在する2歯に維持を求めることが原則となっているが、臨床上、欠損形態に種々のものがあり、さらに欠損部の歯種、部位、支台歯の歯種、位置、数などにより咬合力負担能力もそれぞれ異なる。したがって、本項ではDuchange
の修正法による指数に対し、さらに修正を加えた指数(表1)について解説すると共に基本的欠損型についての設計例を示す。
ブリッジの適否を判定するのに各支台歯とポンティックとの間に以下のような関係が成立する。
ブリッジの抵抗力(r)=R―(F+F・S)
R=支台歯の抵抗(resistance)
F=ポンティックの疲労(fatigue)
F・S=補足疲労(fatigue supplement)
表1 ブリッジの抵抗性の判定に用いる指数
(Duchange の修正法を基本としてさらに修正を加えた指数)
指数(上顎) 2 1 5 4 4 6 6 4
歯種 1 2 3 4 5 6 7 8
指数(下顎) 1 1 5 4 4 6 6 4
1 補足疲労について
補足疲労(F・S)についての評価はいくつか示されているが、本項では以下のように定める。
a.
弧状になっている前歯部を含む2歯以上の連続するポンティックの場合、支台歯間を結んだ直線からポンティックが外側に突出するため、ポンティックに加わ
る咬合力によってテコの作用が支台歯におよび、支台歯に加わる疲労が増すこととなる。したがって、このような場合、補足疲労(F・S)として支台歯から1歯目のポンティックに対して1、2歯目に対しては2としてポンティックの疲労(F)に加える。
b.
遊離端欠損の場合も、一方に支台歯がないため、ポンティックに加わる咬合力は支台歯にテコの作用を及ぼす。やむなく遊離端(延長)ブリッジを作製する場
合、ポンティックは1歯のみで支台歯は2歯以上とし、補足疲労(F・S)はポンティックとなる歯の指数の1/2とする。
2 ブリッジの中間に設定される支台歯の抵抗(R)について
2カ所以上の欠損部位を連ねてブリッジを作製する場合、ポンティックの中間に存在する支台歯が1歯のとき、その抵抗(R)は指数の1/2として計算する。
3 判定条件
以上の条件で計算して得られた数値が以下の2つの条件を満たす場合に、ブリッジが咬合力に耐えられると判定する。
a. ブリッジの抵抗力(r)が0以上であること。
b.
ブリッジの1側の支台歯のRの総計が、隣接するポンティックのF及びF・Sの総計の1/3以上であること。
ただし、遊離端ブリッジ(延長ブリッジ)については適用しない。
次にいくつかの設計例を挙げて、判定法を解説する。
○ :支台歯 ●:ポンティック ▲:半歯分のポンティック
例1) |123
○●○ 〔判定条件a〕
R :2 5 R=2+5=7
5
F : 1 F=1
F・S: 0 F・S=0
r=7−1=6
〔判定条件b〕
R(|1)=2>F/3=1/3
R(|3)=5>F/3=1/3
となり、条件a、b を満たし、負担能力があると判定する。
例2) 321|123
○○● ●●○ 〔判定条件a〕
R :51 5 R=5+1+5=11
F : 2 21 F=2+2+1=5
F・S: 1 21 F・S=1+2+1=4
r=11−(5+4)=2
〔判定条件b〕
R(32|)=6>(F+F・S)/3=(5+4)/3
R(|3)=5>(F+F・S)/3=(5+4)/3
となり、条件a、bを満たし、負担能力が十分あると判定する。
例3) |567
○○▲ |7 の遊離端ポンティックは半歯として認められる
〔判定条件a〕
R :46 R=4+6=10
F : 3 F=3
F・S: 1.5 F・S=1.5
r=10−(3+1.5)=5.5
〔判定条件b〕
遊離端ブリッジは判定の対象としない。
となり、条件aを満たし、負担能力が十分あると判定する。
例4) |456
●○○ 〔判定条件a〕
R : 46 R=4+6=10
6
F :4 F=4
F・S:2 F・S=4/2=2
r=10−(4+2)=4
〔判定条件b〕
遊離端ブリッジは判定の対象としない。
となり、条件aを満たし、負担能力が十分あると判定する。
例5) |12345
○●○●○ |3 は中間支台歯となるのでR=5/2=2.5 となる。
〔判定条件a〕
R :2 5/2 4 R=2+2.5+4=8.5
F : 1 4 F=1+4=5
F・S: 0 F・S=0
r=8.5−5+=3.5
〔判定条件b〕
R(|1)=2>F/3=1/3
R(|5)=4>F/3=4/3
となり、条件a、bを満たし、負担能力が十分あると判定する。
以下に条件を満たさない3例を挙げて、解説する。
例6) |23
●○ 〔判定条件a〕
R : 5 R=5
F :1 F=1
F・S:0.5 F・S=0.5
r=5−(1+0.5)=3.5
〔判定条件b〕
遊離端ブリッジは判定の対象としない。
となり、条件aは満たしているが、支台歯が|3の1歯のみであることから不可となる。
|4を支台歯として追加することにより可能となる。
その結果、|2BCのブリッジは、
r=5+4−(1+0。5)=7。5
となり、安定が得られる。
例7) |12345
○●●○○ 〔判定条件a〕
R :2 44 R=2+4+4=10
7
F : 15 F=1+5=6
F・S: 11 F・S=1+1=2
r=10−(6+2)=2
〔判定条件b〕
R(|1)=2<(F+F・S)/3=(6+2)/3
R(|45)=8>(F+F・S)/3=(6+2)/3
となり、条件a は満たしているが、条件b
で|1の支台歯の負担能力が不足なので1|を
支台歯として追加する必要がある。その結果、@|@23CDのブリッジは、
r=12−(6+2)=4
R(1|1)=4>(F+F・S)/3=(6+2)/3
となり安定が得られる。
例8) |123456
○○●●○○ 〔判定条件a〕
R :11 46 R=1+1+4+6=12
F : 54 F=5+4=9
F・S: 11 F・S=1+1=2
r=12−(9+2)=1
〔判定条件b〕
R(|12)=2<(F+F・S)/3=(9+2)/3
R(|56)=10>(F+F・S)/3=(9+2)/3
となり、条件aを満たすが、判定条件bで|12の支台歯の負担能力が不足しているた
め、21|を支台歯として追加する必要がある。
その結果、A@|@A34DEのブリッジは、
r=14−(9+2)=3
R(21|12)=4>(9+2)/3
となり、安定が得られるが、支台歯の犠牲が大きいので部分床義歯等の適用を検討すべき例と思われる。
以上、いくつかの設計例をあげて、支台歯の負担能力の判定法について述べた。
ただ、前述したように、この指数はあくまでも支台歯が健全で歯周疾患に罹患していない場合が前提となっている。したがって、根管処置や歯周疾患の処置を行っている場合は、対合関係、咬合面形態に充分な配慮が必要である。
なお、このようにして各々の症例について、この算定方式を当てはめてブリッジを設計すると、支台歯の数がかなり多くなる場合も生じる。支台歯が多くなると支台歯形成時の平行性の維持が難しくなる上、健全歯の犠牲も多くなる。
設計時にはこのようなことも十分考慮して、ブリッジのみに固執することなく、部分床義歯の適用なども検討すべきである。
4 その他(歯根を分割した大臼歯に対するブリッジの適用について)
歯根の分割抜去を必要とする大臼歯は“3 分割歯を支台歯とする場合の問題点”の中でも述べられているように歯周疾患に罹患していたり、根分岐部病変を有している歯である。したがって、このような歯は口腔内の他の歯に比べて十分な健康管理を必要とし、清掃性および咬合力負担など特別な配慮をしなければならない。
そのような歯を対象としてブリッジを設計する必要が生じた場合、ブリッジの抵抗性の判定に用いる指数は以下のように考えられる。
a 下顎大臼歯について
1)分割した歯根を支台歯とする場合の抵抗(R)=2
2)欠損した歯根部のポンティックの疲労(F)=4
b 上顎は3根あるが、2根が残っている場合に支台歯として利用できる。
1)分割した歯根を支台歯とする場合は1本について、その抵抗(R)=1とする。
2根を支台歯とするのでR=2となる。
2)欠損した歯根部のポンティックの疲労(F)=4
次にその設計を示す。
例1) |667
○●○ 〔判定条件a〕
R :2 6 R=2+6=8
F : 4 F=4
r=8−4=4
〔判定条件b〕
R(|6)=2>F/3=4/3
R(|7)=6>F/3=4/3
となり、条件a、bを満たし、負担能力があると判定する。
例2) |6678
○●●○ 〔判定条件a〕
R :2 4 R=2+4=6
F : 46 F=4+6=10
r=6−10=―4
となり、条件aでr<0となるので不可。|5を支台歯として追加する必要がある。
その結果、|DE67Gのブリッジは、
r=10−10=0
R(|56)=6>F/3=10/3
R(|8)=4>F/3=10/3
となり、安定が得られる。
例3)|667
(口蓋根および近心頬側根残存、遠心頬側根欠損)
○●○ 〔判定条件a〕
R :2 6 R=2+6=8
F : 4 F=4
r=8−4=4
〔判定条件b〕
R(|6)=2>F/3=4/3
R(|7)=6>F/3=4/3
となり、条件a、bを満たし、負担能力があると判定する。
例4)|4566 (近遠心頬側根残存、口蓋根欠損)
○●○○
“注”口蓋根の欠損はポンティックを設計する必要がない。
R :4 11
F : 4
〔判定条件a〕
R=4+2=6
F=4
r=6−4=2
〔判定条件b〕
R(|4)=4>F/3=4/3
R(|66)=2>F/3=4/3
となり、条件a、bを満たし、負担能力があると判定する。
以上、歯根を分割抜去した歯を対象としてブリッジを設計する例を示したが、前にも述べたように、このような歯は各々の症例によって条件が多様で、歯根の形状や歯槽骨の吸収状態などによって、ここで示している指数をさらに減じて設計しなければならない場合もある。設計に当たっては各々の症例の内容を十分検討して安全を期すことが重要である。
ブリッジには固定性ブリッジ、半固定性ブリッジ、可撤性ブリッジなど種々のものがあるが、いずれの場合も、その支台歯ならびにその支台歯相互の平行関係について考慮をはらわなければ、ブリッジを作製し、装着することはできない。とくに支台歯相互の歯軸の平行性を著しく欠く場合には、あえて固定性ブリッジを作製することよりもむしろ半固定性ブリッジ、あるいは可撤性ブリッジを作製することを検討すべきである。
前述した各項目の事項、ブリッジの適応症などを認識した上で、それに基づいて具体的な設計を行わねばならない。支台装置と歯の欠損部を補う人工歯、すなわちポンティックを連結させて、橋梁的なブリッジとして、咬合を回復し、咀嚼機能障害、構音障害、審美障害などを回復するには、
1 ブリッジの種類の選定
固定性ブリッジ、半固定性ブリッジ、可撤性ブリッジ
2 支台装置の選定
全部鋳造冠、前装鋳造冠、部分被覆冠、インレー、等
3 ポンティックの選定
完全自浄型(離底型)、半自浄型(リッジラップ型、偏側型、船底型)、非自浄型(鞍状型、有床型、等)
4 連結方法の選定
一塊鋳造法、ろう付け法、アタッチメント、等
5 使用材料の選定
金属、前装材料、等
などを詳細に検討し、患者の口腔内に装着後、長期にわたって機能を果たすブリッジの設計を行わねばならない。
適応症の問題点として以下の7項目について解説する。
1 智歯を支台歯とする場合の問題点
2 遊離端(延長)ブリッジ設計の問題点
3 分割歯を支台歯とする場合の問題点
4 ブリッジの設計に関係する動揺歯についての考え方
5 犬歯欠損症例の考え方
6 3歯欠損以上の症例についての考え方
7 間隙が歯式上よりも少ない場合の考え方
1 智歯を支台歯とする場合の問題点
ブリッジの支台歯として、智歯には次のような問題が考えられる。
a.
歯冠、歯根の平均的な大きさは、第1、第2大臼歯より小さい。また、歯根の形態的変異がみられ、大きい歯根は融合する傾向を示し、円錐状を呈する単根の頻
度も高い。
b.
上顎智歯では頬側への、下顎智歯では近心あるいは舌側への傾斜の頻度が高い。
また歯列弓をはずれた転位も多い。このようなことから平行性が得られないこと、位置が不正であることによって、支台歯として用いることが難しい場合が少なくない。
c.
器械、器具が操作しにくいという位置的条件のため、正確な支台歯形成が難しく、ブラッシングの徹底も困難である場合が多い。
以上のことは、智歯の支台歯への利用に関してスタディモデル、エックス線写真等による的確な診断と治療計画の検討が肝要であることを意味するものであり、その際、これらの上記事項は十分考慮すべきである。そこで、智歯をブリッジの支台歯とする場合は、歯冠、歯根の大きさや形態、傾斜、転位等により総合的な判断を下す必要がある。
2 遊離端(延長)ブリッジの設計の問題点
一端で支台歯に連結された片持ち式のポンティックを有する遊離端ブリッジは、テコの作用によって支台歯の負担過重を招くことから、原則的には好ましくない方法である。
たとえば、具体的設計例として上下顎第2大臼歯欠損に対して第1大臼歯・第3大臼歯を支台歯とするブリッジは十分適応となっている。しかし、第1大臼歯のみを支台歯とする遊離端ブリッジは適切でないが、第2小臼歯・第1大臼歯を支台歯として求めれば一応適応あるいは条件によっては適応とされている。
すなわち力学的には、両持ち式のポンティックに比べて、片持ち式ポンティックの場合は支台歯に4倍の回転モーメントが加わる計算となる。そこで上の例では、さらに第1小臼歯を支台歯として加えることが薦められている。
遊離端ブリッジの設計方針は、基本的にはこの原則に従うべきものと考えられるが、遊離端ブリッジが許される条件にするためには、ポンティックに加わる負担を軽減する目的で咬合面の縮小、すなわち近遠心径及び頬舌径の縮小さらに対合歯との接触関係を最小限にすることが必要である。さらに、対合歯が天然歯であるか、可撤性義歯であるかという対合歯の問題もブリッジの設計を検討する場合の重要な要素の一つである。
3 分割歯を支台歯とする場合の問題点
上下顎大臼歯において分割抜去が行われた歯根が支台歯として利用可能であり、良好な臨床経過をたどるものがあることは確かである。しかし、分割歯を支台歯とする場合には、次のような点について考慮する必要がある。第1に、分割歯には当然、歯根を分割抜去しなければならなかった原因があり、負担能力の低さが考えられる。第2に、2根をもつ下顎大臼歯は、分割抜歯後に1根が利用されるが、上顎大臼歯では3根のうち、どの歯根ならばよいかという問題がある。このことに関しては、3根のうち2根が利用できるという条件が一応の目安と考えられる。しかし、ブリッジの形態に関しては、頬側2根のうち1根と口蓋根を利用する場合には、解剖学的形態に近い咬合面を与えやすいのに対して、頬側2根の場合には咬合面の口蓋側を大幅に縮小した形となるために、解剖学形態の再現は困難である。
歯根分割、分割抜去
基本原則: 歯周疾患罹患歯で根分岐部病変を有する複根歯において、必要があって歯根分割(ルートセパレーション、Root separation)あるいは分割抜去(ヘミセクション、Hemisection、トライセクション、Trisection)を行う場合は、以下の注意事項を十分に検討し、安全性を見込んで単独歯あるいは支台歯として使用すべきである。
各々の歯の支持組織の負担を軽減し、かつ安静に保ち、歯槽骨の吸収を予防し、治癒を促進させることを目的とし、安易に使用してはならない。
なお、歯周疾患を原因とせず、根分岐部病変の歯に対しても同様の取扱いとする。
注意事項:歯冠形態を考慮し、自浄性および清掃性の向上を図る。
必要に応じ、前後に骨植堅固な歯を補強として求める。
対合歯との関係を精査して設計し、必要に応じて対合歯を調整・処置する。
プラークコントロールのやり易い形態を考慮し、さらに清掃方法の指導と確認、噛み方指導、定期的観察を行う。
4 ブリッジの設計に関係する動揺歯についての考え方
臨床では、ブリッジの設計に際して動揺歯を支台歯としてブリッジの中に取り込むべきか否かを迷う場合がある。歯周疾患罹患歯の動揺防止の目的で行われる永久固定の有効性から、動揺歯の利用あるいは保護を目的とするブリッジの合理性が論じられる場合もある。しかし、欠損歯の補綴を目的とする通常のブリッジと動揺歯の固定を目的とする治療装置とは本来視点を異にして、別の場で論じられるべきである。
具体的設計に際して、支台歯の負担能力の評価ないし判定は、歯科医師は総合的観点から行うべきであるが、本稿で設計の基準として示している指数は、当然のことながら歯周組織の健全な歯を対象としたものであり、これに基づいて設計がなされている。
そこで、動揺歯を支台歯としてブリッジの設計に組み入れることは、支台歯の予後を不良にする危険性の高い因子を取り込むことになるので、特段の場合を除いて推奨されないが、実施する場合には症例、設計、管理等に充分に注意を払うことが必要である。
5 犬歯欠損症例の考え方
犬歯の支台歯としての負担能力は、小臼歯と同等あるいはそれ以上と高い評価が与えられている。これは、ブリッジの設計上、支台歯として犬歯が重要であることを意味しているが、その反面、ポンティックとなった場合の負担も大きく見積もられている。したがって、犬歯欠損症例に対しては、この点を十分考慮に入れた設計を行わなければならない。さらに、前方運動および側方運動のガイドという観点や、審美的観点から犬歯をできるだけ切削しないで保存することについても考慮すべきである。
6 3歯欠損以上の症例についての考え方
3歯欠損以上の症例は連続して欠損している症例と、中間に支台歯を挟み、その欠損歯の合計が3歯以上になっている症例とに分けられる。ブリッジの中で最も安定している症例としては、中間型の1歯欠損である臼歯部の第1大臼歯が欠損し、前後の2歯を支台歯としたものがあげられる。
欠損歯が2歯、3歯と連続した症例を考えると、その欠損部のポンティックを支えるためには支台歯に大きな負担が加わることになり、支台歯を増やしたとしても、全体が長くなり、咬合力によってブリッジ全体がたわむことが考えられる。このようにブリッジ全体がたわむと支台歯に加わる力は遊離端(延長)ブリッジの場合に近くなり、テコの作用として働くことになる。したがって、安全度から考えると、臼歯部の連続欠損は2歯までとすべきである。前歯部については歯列がアーチ状の形態をしているため、連続した欠損部のポンティックは歯数が多くなるほど支台歯の支点間を結んだ直線の外側に突出するため、加わる力は支台歯に対するテコの作用として働く。したがって、歯列のアーチの中でも特に外側に突出し、負担能力の大きい犬歯を含む連続欠損は臼歯部と同様に2歯までと考えるべきである。しかし、上下顎の正中部を境に両側の中切歯、側切歯が欠損している場合、欠損歯数は多くなるが、支台歯を両側の犬歯及び小臼歯部に設定することにより、比較的良好な安定が得られると考えられる。
このため、このような連続欠損は症例によっては、3歯、4歯でも不可能ではない。ただし、その場合は臼歯部の咬合支持が確保されていて、前歯部に大きな咬合力の加わらないことが条件となる。
7 間隙が歯式上よりも少ない場合の考え方
支台歯の抵抗としての指数は、歯根膜の表面積から算出したものであるが、欠損部については歯が存在したときの歯根膜の表面積には関係なく、欠損が生じた部分の幅径から算出されるものと考えられる。
例えば、矯正治療を行った患者で、第1小臼歯は欠損しているものの、歯列としては間隙がない場合において、仮に第2小臼歯を抜歯してブリッジを作製・装着する症例を想定し、第1、第2小臼歯の2歯欠損として扱う場合と、1歯欠損として扱う場合を、以下に示す。
例1−1)第1、第2小臼歯の2歯欠損として扱う場合
|3456
○●●○ 〔判定条件a〕
R :5 6 R=5+6=11
F : 44 F=4+4=8
F・S: 0 F・S=0
r=11−8=3
〔判定条件b〕
R(|3)=5>F/3=8/3
R(|6)=6>F/3=8/3
となり、条件a、bを満たし、負担能力が十分あると判定する。
例1−2)第1小臼歯の1歯欠損として扱う場合
|356
○●○ 〔判定条件a〕
R :5 6 R=5+6=11
F : 4 F=4
F・S: 0 F・S=0
r=11−4=7
〔判定条件b〕
R(|3)=5>F/3=4/3
R(|6)=6>F/3=4/3
となり、条件a、bを満たし、負担能力が十分あると判定する。
いずれも負担能力ありと判定される。
第1大臼歯を抜歯する場合
例2−1)第1小臼歯、第1大臼歯の2歯欠損として扱う場合
|34567
○●○●○ |5 は中間支台歯となるのでR=4/2=2となる。
〔判定条件a〕
R :5 2 6 R=5+2+6=11
F : 4 6 F=4+6=10
F・S: 0 F・S=0
r=11−10=1
〔判定条件b〕
R(|3)=5>F/3=4/3
R(|7)=6>F/3=6/3
となり、条件a、bを満たし、負担能力が十分あると判定する。
例2−2)第1大臼歯の1歯欠損として扱う場合
|567
○●○ 〔判定条件a〕
R :4 6 R=4+6=10
F : 6 F=6
F・S: 0 F・S=0
r=10−6=4
〔判定条件b〕
R(|5)=4>F/3=6/3
R(|7)=6>F/3=6/3
となり、条件a、bを満たし、負担能力が十分あると判定する。
犬歯を抜歯する場合
例3−1)犬歯と第1小臼歯の2歯欠損として扱う場合
X 例8)で示したように
A@|@A34DEのブリッジを設計する必要がある。
例3−2)犬歯1歯欠損として取り扱う場合
|1235
○○●○ 〔判定条件a〕
R :11 4 R=1+1+4=6
F : 5 F=5
F・S: 0 F・S=0
r=6−5=1
〔判定条件b〕
R(|12)=2>(F+F・S)/3=5/3
R(|5)=4>(F+F・S)/3=5/3
となり、条件a、bを満たす。
以上のように、欠損を1歯分として取り扱うことにより、これまでの解釈で条件を満たさないとされたケースにおいても適用できる場合があることがわかる。
ブリッジによる補綴治療において、特にその欠損に隣在する歯が健全歯に近い場合、全部被覆冠によるブリッジを選択すると欠損歯の隣在歯はアンダーカットを除去するために多くのエナメル質が失われる。このような理由で、支台装置として部分被覆冠やインレーを用いることもあるが、これらの支台装置は比較的早期に脱落することもあり、欠損間隙が狭い症例や咬合力のあまりかからない症例に限られている。1973 年にRochette はMM系レジンを用いて、金属鋳造体をエナメル質に接着する方法を紹介し、その後、切削がエナメル質内に限局されているブリッジは「接着ブリッジ」と呼ばれ、ブリッジによる治療法の一つである。接着ブリッジに関する診療ガイドラインについては、社団法人日本補綴歯科学会の「接着ブリッジのガイドライン」を参照されたい。
義歯の装着の有無にかかわらず、顎堤には加齢に伴う吸収が認められることから、いかに適合のよい義歯を装着しているとしても経年的に義歯の不適合が生じることになる。この義歯不適合に対する処置としては、新義歯の製作と、リラインおよびリベースが考えられる。特に、リラインやリベースによる対応を行った場合には、新義歯製作に比較して、患者の来院回数や医療費の軽減を図ることができる。しかしながら今日、リベースの指針といえるものは存在するものの、リラインの指針は作成されていない。また、平成17 年に日本歯科医学会が実施したアンケートの結果では、臨床で広く用いられている直接法や材料の進歩に伴い開発・市販された軟質材の記述が必要であることが指摘されている。これらのことから、リラインの指針を作成することとした。なお、リベースについては、社団法人日本補綴歯科学会発行の「リラインとリベースのガイドライン」を参照されたい。
1 定義
下顎位と咬合関係は正しいが、義歯床粘膜面の適合が不良となった場合に義歯床粘膜面を新しい義歯床用材料に置き換え、義歯床下粘膜との適合を図ることをリライン(reline、relining)または、床裏装法とも呼ばれる。
2 分類
リラインには、口腔内で直接圧接や筋圧形成(筋形成、辺縁形成)を行いながら処置をする直接法と、ダイナミック印象(動的印象)などを行ったのちに義歯を預かって技工室で行う間接法とがある。
直接法は、モノマーや重合反応熱により顎堤粘膜を刺激する場合があるが、診療の場で行えるため、広く用いられている。厚みを確保したい軟質リライン材を使用する場合は、リライン前に義歯床粘膜面をリライン材の厚み分だけ削除する必要がある。また、一定の厚みを確保できなかったり、厚みの確保のため、咬合高径が変化することがある。これに対し、間接法では、直接法に比べ適切な厚みを得ることができること、唾液との接触がないため接着力が向上することなどの利点がある。また、リライニングジグ(relining
jig)を用いることによって操作を数時間で行うことができるため、義歯を預かる時間を少なくできる。
3 材料の種類と特徴
1) 材質による種類と特徴
リラインに使用する材料には、硬質と軟質の2種類があり、一般には硬質材料を用い、緩圧が必要な場合に軟質材料を用いる。硬質材料はアクリル系であり、軟質材料はアクリル系、シリコーン系、ポリオレフィン系などである。同系の材料でも組成や物理的・機械的性質が異なるため、これらの材料の特徴と特性を熟知し、症例に応じて選択することが重要である。
軟質材料の中で、アクリル系のそれは粘弾性的な性質を、シリコーン系とポリオレフィン系のそれは弾性的な性質を有する。なお、シリコーン系は経時的な物性の変化が小さく、高い耐久性を示す。
一方、アクリル系は経時的に粘弾性が変化し、徐々にその緩圧効果が失われる傾向がある。
2) 材料の重合型による種類と特徴
リラインに用いられる材料の重合型には、常温重合型、光重合型、加熱重合型などがあり、直接法では常温重合型と光重合型が、間接法では加熱重合型、常温重合型、光重合型がそれぞれ用いられる。
常温重合型は、液(モノマー)と粉(ポリマー)を混和することにより重合反応が進行し、硬化するため、顎堤や支台歯(鉤歯)のアンダーカットに入り込んで硬化した場合には取り出せなくなることがあるため、硬化前に取り出すなどの注意が必要である。
光重合型は、光照射により重合、硬化するため、数度の着脱を行い、余剰部分を除去できる。また、顎堤粘膜を刺激することが少ないので、粘膜が過敏な症例でも用いることができる。
加熱重合型は、義歯をフラスクに埋没し、義歯床用材料を填入、加熱重合する方法である。他の方法よりも耐久性があるが、操作が煩雑で時間がかかるという欠点があり、通常の重合時の誤差も含まれるため、臨床では、主に常温重合型と光重合型が用いられる。
直接法
硬質:常温重合型アクリル系リライン材
光重合型アクリル系リライン材
軟質:常温重合型アクリル系弾性リライン材
光重合型アクリル系弾性リライン材
常温重合型シリコーン系リライン材
間接法
硬質:常温重合型アクリル系レジン
加熱重合型アクリル系レジン
光重合型アクリル系レジン
軟質:常温重合型アクリル系弾性リライン材
加熱重合型アクリル系弾性リライン材
常温重合型シリコーン系リライン材
加熱重合型シリコーン系リライン材
加熱軟化型ポリオレフィン系リライン材
4 診察・検査
リラインの診察・検査・適応を図1に示す。
1) 義歯床と顎堤粘膜との適合検査
義歯床と顎堤粘膜との適合状態を適合試験材によって検査する。また、義歯の維持・安定と吸着状態を口腔内で検査する。義歯床粘膜面は適合しているが、咬合すると脱離する、あるいは顎堤粘膜に疼痛が生じる場合は、下顎位と咬合関係を検査し、咬合調整、義歯床粘膜面の調整により改善がみられるか否かを検査する。
2) 下顎位を含む咬合関係の検査
下顎位や咬合高径など、咬合関係が適切であるか否かを検査する。下顎位と咬合にわずかな問題がある場合、咬合調整、あるいは咬合面再形成により、これらが改善できるか否かを検査する。改善できる場合のみがリラインの適応となる。
3) 顎堤粘膜の検査
顎堤粘膜を検査する。顎堤粘膜に潰瘍あるいは圧痕などの異常が認められる場合には、前処置として粘膜調整(ティッシュコンディショニング)を行う。
5 適応症
下顎位と咬合関係が適切であり、義歯床粘膜面の適合が不良な場合がリラインの適応となる。
※禁忌症:下顎位、咬合高径などの咬合関係を是正できない場合が禁忌となる。なお、粘膜が過敏な患者では、直接法が禁忌となる場合がある。
6 リラインの一般的操作(図2)
直接法が推奨されるのは、義歯を預かることができない場合、顎堤粘膜を刺激しない場合、一定の厚みを確保でき咬合高径が変化しない場合である。間接法が推奨されるのは、義歯を預かることができる場合である。間接法のなかで、フラスク埋没による方法が確実であり、推奨される。また、ジグによる方法も印象採得時の咬合高径を維持した状態のリラインが可能であり、処置時間を短縮できる。
操作に先立って義歯床粘膜面を一層削除する。フラビーガムや口蓋隆起などの骨隆起がある場合には、必要に応じて同部の義歯床粘膜面の削除量を多くしたり、遁路を設けたりする。ただし、削除量が多く、レジン床の部分が薄くなると一般に強度は低下するため注意が必要である。
1)直接法
義歯床粘膜面を一層削除してレジンの新鮮面を露出させた後、接着剤を塗布し、下記の操作を行う。
(1) 常温重合型レジンによる操作
@
リライン材を混和し、流動性が低下してクリーム状になった時点で義歯床粘膜面全体に均等に盛り、適当な粘稠度(表面の光沢がなくなった)になった時点で口腔内に挿入する。
A
咬頭嵌合位で軽く咬合させ、次いで筋圧形成(筋形成・辺縁形成)を行う。
B
レジンが餅状よりやや硬めになった時点で、義歯を口腔外に取り出して余剰なレジンを除去する。再度、口腔内に装着して、レジンの硬化を待つ。硬化促進剤を用いて、口腔外で完全硬化させる場合もある。
C 十分に硬化させた後、義歯を口腔外に取り出す。
D
形態修正、リリーフすべき部位の調整、咬合調整を行い、研磨する。
(2) 光重合型レジンによる操作
@ 義歯床粘膜面に光重合レジンを盛り上げ、口腔内に挿入する。
A
咬頭嵌合位で軽く咬合させ、次いで筋圧形成(筋形成・辺縁形成)を行う。
B
余剰のレジンを除去後、再度口腔内で同じ操作を行う。この操作は、温湯に浸して粘度を低くしながら繰り返し行う。
C
冷水を口に含ませて、レジンの粘度を高くし、変形させないように注意深く取り出す。
D
光重合レジン面全体に空気遮断材を塗布し、光照射器により重合を行う。
E 空気遮断材を流水で洗い流す。
F
形態修正、リリーフすべき部位の調整、咬合調整を行い、研磨する。
※部分床義歯の場合には、レストをレストシートに適合させ、義歯が口腔内の所定の位置に収まるように手指圧で保持し、筋圧形成を行う。また、常温重合型レジンを使用する場合には、歯間部や顎堤のアンダーカット部にレジンが侵入、硬化し、義歯が外れなくなることがあるので、餅状期に口腔外に撤去して余剰レジンを取り除いた後、硬化するまで幾度か口腔外に撤去する必要がある。
2)間接法
義歯床粘膜面を一層削除後、義歯床をトレーとして流動性のよい精密印象材で印象採得を行うか、あるいは粘膜調整材やダイナミック印象材(動的印象材)で顎堤粘膜の印象採得および咬合採得を行った後、下記の操作を行う。
(1) リライニングジグによる方法
@
ボクシング後、義歯床の印象面に石膏を注入して模型を製作する。
A
リライニングジグの下部に石膏を盛り、その上に義歯を置いて咬合面コアの採得を行う。
B
ジグの上部を組み合わせて、模型の基底面に石膏を盛り、ジグの上部に付着する。
C ジグを分離し、義歯床粘膜面の印象材を除去する。
D
フラビーガムや口蓋隆起などの骨隆起は、錫箔やシートワックスを貼布してリリーフする。
E ジグの上部の模型にレジン分離剤を塗布する。
F
義歯床粘膜面のレジンを一層削除してレジンの新鮮面を露出させた、レジンプライマーを塗布した後、常温重合レジンを盛る。
G
ジグの上部を下部に組み合わせて固定し、余剰レジンを除去する。
H レジン重合を行う(例。加圧重合:2 気圧下1 時間、4 気圧下20
分等)。
I 形態修正とリリーフすべき部位の調整を行い、研磨する。
(2) フラスク埋没による方法
@
ボクシング後、義歯床の印象面に石膏を注入して模型を製作する。
A 床縁部の余剰の印象材を除去し、ワックスにて修正する。
B 義歯床研磨面に石膏分離剤を塗布後、フラスクに埋没する。
C フラスクを分離し、義歯床粘膜面の印象材を除去する。
D
フラビーガムや口蓋隆起などの骨隆起は、錫箔やシートワックスを貼付してリリーフする。
E 模型にレジン分離材を塗布する。
F
義歯床粘膜面のレジンを一層削除して新鮮面を露出させ、レジンプライマーを塗布した後、常温重合レジンを盛る。
G
上下フラスクを合わせて、余剰レジンを除去し、硬化を待つ(重合完了後、咬合器に再装着し、咬合調整を行う)。
H 形態修正とリリーフすべき部位の調整を行い、研磨する。
本指針の用語の記載については、日本補綴歯科学会編
歯科補綴学専門用語集 第2 版に準拠した。
平成19年9月
スタディモデルは口腔内の診察、エックス線検査などに加えて、一口腔単位として、咬合関係、歯および歯周組織の状態などを全方向から立体的に検査可能な歯科医療に特有な資料である。スタディモデルを用いて検査することによって、一口腔単位として、より正確な診断と治療計画の立案が可能になる。
スタディモデルの特徴から、スタディモデルは全顎的な治療が必要な症例、咽頭方向からの観察による診断が必要な症例、歯肉・粘膜組織の処置に十分な配慮が必要な外科治療症例などにおいて、治療計画の立案、治療手技の決定等に必要となる。また、歯周治療など、治療経過が長期に渡り、治療経過に従って歯の位置、咬合関係、および歯周組織の形態等が変化する場合の評価にも利用できる。その他の利用目的として患者への説明時や、ブラッシング指導時に利用する。
作製の時期
1 初診時
2 補綴治療又は手術等に着手する前
3 その他、特に必要とする時期
作製方法
1 印 象
アルギン酸印象材による上下顎の印象を採取する。
2 咬合採得
必要に応じて咬合採得を行う。また、必要に応じて調節性咬合器に装着して診断する。
3 模 型
普通石膏による模型を作製する。スタディモデルは検査に利用した後に作業用模型として利用できる。
作業用模型はスタディモデルとみなさない。
検査項目
スタディモデルの検査項目は治療目的によって異なる。
(1)歯列及び咬合状態
(2)歯肉縁上の歯冠、歯根の状態
(3)歯の植立方向
(4)歯の欠損部の状態
(5)軟組織の形態(顎堤、口蓋、歯肉乳頭、辺縁歯肉、小帯等の形態等、口腔前庭、瘻孔など)
(6)切開線等の手術手技決定
保 管
スタディモデルに患者氏名,印象採得日を記載して保管する。
*
治療終了後にスタディモデルの写真を撮った場合は保管に代えることができる。
*
通し番号とスタディモデル管理表などによる模型の管理も個人情報保護の点からは優れている。
廃 棄
スタディモデルは、患者氏名を削除した上で、医療廃棄物として廃棄する。